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進化するフィールドレコーディング 1/3

01 アーカイブされる音の世界地図

ボルネオ島の熱帯雨林やコスタリカでの熱帯雲霧林など世界各地の様々な生態系の音の世界を録音してきました。音楽としても更に複雑な概念をもつ自然界の音を聴くという行為は、体験しながら浴び続ける音の形そのものです。そんな魅力を持つ野外録音についてサウンドスペースデザインの側面から数回に渡り考察していきます。

フィールドレコーディングとは、スタジオ外の音を録音することを指しており音楽以外の音に耳を積極的に傾けて聞く行為そのものでリスニング手法の一つになります。自然や都市の音を積極的に聴くという行為は元来人間に備わっている防衛本能とも深く結びついています。音は距離や位置などで空間を認識することが可能なメディアであり、古来より人は周囲の音を聞くことによって身の安全を確保してきた歴史があります。

そのような人類の歴史の流れでエジソンが1877年に発明した「フォノグラフ(Phonograph)」以降、人は音を録音して再生できるようになりました。それまで口語伝承か記譜などでしか記録し伝えることのできなかった音の記憶はそれ以降メディアとして保存することができるようになり、音楽は勿論のこと、それ以外の様々な分野にも大きな影響を与えていきました。

遡ること15世紀にピンホールカメラから発生したカメラ・オブスクラ(小さく暗い部屋)と呼ばれる装置から人は正確な写生を行うことができるようになり、光学レンズの技術を経てカメラが生まれました。この時間を面で切り取る「フォトグラフィー」と対比してフィールド・レコーディングは「フォノグラフィー」とも呼ばれ、連続した時間と空間を音で記録していく技術でもあります。どちらも正確に情報を記録するという意味では、社会人類学、民俗学などでも用いられて1930-40年代は民族音楽学による調査旅行のパイオニアとされるHugh Traceyなどが野外録音を行い学術的資料として貴重な情報メディアになりました。その後、サウンドスケープの提唱者R.マリー・シェーファーが提唱する音響生態学でも生物と環境を考える上でもフィールドレコーディングは重要な役割を果たすことになります。その後クリス・ワトソンやヤナ・ウィンデレンをはじめ野外録音を作品として発表するサウンドアーティストも出現しました。

このようなフィールドレコーディングは、近年は録音機材の向上により多くの人々にとって録音が身近になり更に高解像度の音を記録できるようになりました。録音とは時間と空間をマイクを通して音でキャプチャーすることですが、カメラ同様シャッターをただ切るだけでは良い写真を撮影できないのと同じで、単純に録音ボタンを押すだけでは良い録音になりません。マイクや録音機材を熟知することも大切ですし、その音の社会的な文脈、歴史、環境などを踏まえた上で音楽的な耳でリスニングすることも録音行為では必要になります。また自然の中での録音では自分の気配を消すことも大切になります。

2005年にスペインのバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学が始めたFreesound.orgでは世界中のあらゆるフィールドレコーディングの音がアップロードされて現在もデータベース化され続けています。これが意味することは地球の音の膨大なキャプチャリングでもあり、その音のアーカイビングを受けて人々が何を考えてアウトプットするのかも問われていることです。この膨大なフィールドレコーディングデータに対して音の文化的な回答の一つがサウンドスペースデザインになり得ることだと考えています。人々が聴いてきた音環境を新たに作り出すというこの行為にフィールドレコーディングという音の世界地図はこれから更に重要な意味を持つと考えます。

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